和歌と俳句

水原秋櫻子

渚なる馬うすれつつ霧らふらし

霧すぎてあな青山の沼にうつり

霧はれてかがやく馬のあまた居り

仔の馬の足掻けり親に澄む秋日

仔の馬の親に添ひつつ澄む秋日

霧吹きて青山影の沼に消ゆる

吹く霧のあはれ仔馬を奪ひたり

狐舎の径龍膽もまじる薄紅葉

狐舎の径白樛木の紅葉赫と燃ゆ

狐舎の径穂芒に没り踏みがたし

狐舎あまた塵もとゞめず秋の暮

龍膽に狐の産屋立ちならぶ

狐の眼ひかり秋の日暮れ終んぬ

秋山に雲湧き八つの峰かくる

雲垂れて巨いなる山の紅葉せり

雲騰り岩肌の峰に秋日燃ゆ

山の端にながれ凝りたり雲の秋

山紅葉国原四方に暮れゆきぬ

雪の富士立てり嘆きの夜ぞ明くる

垣の霜ひとかなしみて富士を見ず

道の霜柩車かたむき軋りいづ

遠ざかる柩車に霜の日は照りぬ