渚なる馬うすれつつ霧らふらし
霧すぎてあな青山の沼にうつり
霧はれてかがやく馬のあまた居り
仔の馬の足掻けり親に澄む秋日
仔の馬の親に添ひつつ澄む秋日
霧吹きて青山影の沼に消ゆる
吹く霧のあはれ仔馬を奪ひたり
狐舎の径龍膽もまじる薄紅葉
狐舎の径白樛木の紅葉赫と燃ゆ
狐舎の径穂芒に没り踏みがたし
狐舎あまた塵もとゞめず秋の暮
龍膽に狐の産屋立ちならぶ
狐の眼ひかり秋の日暮れ終んぬ
秋山に雲湧き八つの峰かくる
雲垂れて巨いなる山の紅葉せり
雲騰り岩肌の峰に秋日燃ゆ
山の端にながれ凝りたり雲の秋
山紅葉国原四方に暮れゆきぬ
雪の富士立てり嘆きの夜ぞ明くる
垣の霜ひとかなしみて富士を見ず
道の霜柩車かたむき軋りいづ
遠ざかる柩車に霜の日は照りぬ