山柿や五六顆おもき枝のさき 蛇笏
雲霧や嶽の古道柿熟す 蛇笏
爪たてて山柿しぶし麓路 蛇笏
柿もぐや殊にもろ手の山落暉 不器男
山柿の下に人情ありしかな かな女
剥いでもらつた柿のうまさが一銭 山頭火
だんだん晴れてくる山柿の赤さよ 山頭火
もぎのこされた柿の実いよいよ赤く 山頭火
渋柿のつれなき色にみのりけり 淡路女
いたみ柿頬やけ阿弥陀に供へあり 虚子
まづたのむ柿の実のたわわなる 山頭火
枝もたわわに柿の実の地へとどき 山頭火
ふるさとの柿のすこししぶくて 山頭火
落ちついてどちら眺めても柿ばかり 山頭火
柿をもぐ長い長い竿の空 山頭火
釣鐘のもとに柿売る媼かな 風生
訪ひて羽織をぬぎぬ柿の秋 みどり女
枝ながら柿そなへあり山の寺 しづの女
柿をもぐ煤のたれゐる梯子かな 爽雨
さみしさの種無柿を食うべけり 鷹女
豆柿や真青き蔕をおのがじし 鷹女
雨がふるので柿がおちるので 山頭火
しんかんとして熟柿はおちる 山頭火
おちついて柿もうれてくる 山頭火
うれひなし汝が剥く柿のいと赤く 万太郎
嫁ぎゆく友羨しまず柿をむく しづの女
柿をむきて久遠の処女もおもしろし しづの女
山柿の一葉もとめず雲の中 秋櫻子
美濃の柿陶の古鉢に盛りて見む 秋櫻子
いそのかみ古き平鉢に柿あかし 秋櫻子
大き野の入日映えけむ柿はよし 秋櫻子
信念は刻と移れり柿熟れぬ 鷹女
柿熟るる肺腑がよごれゐる思ひ 鷹女
切通し柿の色づく漁港かな 汀女
柿の荷の下の布子を取り出だす 汀女
黒きしみつとあり五郎兵衛柿とかや 虚子
柿食ふやかかるかなしき横顔と 楸邨
柿食へば誰もひとりの無言あり 楸邨
つめたき柿に夜更の慾足りぬ 波郷