柿もぐや殊にもろ手の山落暉
摺り溜る籾掻くことや子供の手
新藁や永劫太き納屋の梁
蓑虫の鳥啄ばぬいのちかな
川蟹のしろきむくろや秋磧
泥濘におどろが影やきりぎりす
ふるさとを去ぬ日来向ふ芙蓉かな
浸りゐて水馴れぬ葛やけさの秋
ひややかや黍も爆ぜゐる夕まうげ
秋の夜のつづるほころび且つほぐれ
あなたなる夜雨の葛のあなたかな
ひねもすの山垣曇り稲の花
稲原の吹きしらけゐる墓参かな
籾磨や遠くなりゆく小夜嵐
秋ゆくと照りこぞりけり裏の山
薪積みしあとのひそ音や秋日和
秋晴やあえかの葛なる馬の標
秋耕やあえかの葛を馬の標
牧牛にながめられたる狭霧かな
あちこちの祠まつりや露の秋
わかものの妻問ふ更けぬ露の村
鮎落ちて水もめぐらぬ巌かな
うちまもる母のまろ寝や法師蝉
はばかりてすがる十字架や夜半の秋
夕ざれば戸々の竈火や啄木鳥
ゆく秋を乙女さびせり坊が妻
鴉はや唖々とゐるなり菌狩