麦車馬におくれて動き出づ
向日葵の蕋を見るとき海消えし
樺の中くしくも明き夕立かな
枯山を断つ崩え跡や夕立雲
蓬生に土けぶり立つ夕立かな
滝音の息づきのひまや蝉時雨
山霧や黄土と匂ひて花あやめ
隠沼は椴に亡びぬ閑古鳥
虚国の尻無川や夏霞
郭公や国の真洞は夕茜
風鈴の空は荒星ばかりかな
桑の実や馬車の通ひ路ゆきしかば
駅路や麦の黒穂の踏まれたる
ころぶすや蜂腰なる夏痩女
籬根をくぐりそめたり田植水
大雨に鏡もぬれし田植かな
沢の辺に童と居りて蜘蛛合
朝ぼらけ水隠る蛍飛びにけり
花うばらふたたび堰にめぐり合ふ
花うばらふたたび燃ゆる蚊遣かな
月雲をいづれば燃ゆる蚊遣かな
さきだてる鵞鳥踏まじと帰省かな
岩水の朱きが湧けり余花の宮
山の蚊の縞あきらかや嗽
扇風機まはれる茶の間ぬけにけり
南風の蟻吹きこぼす畳かな
早乙女の虹を讃えて佇ちにけり
塀に古るへのへのもへや麦の秋