眠たうてあごのまろさや蚊火の妻 草城
埒もなや蚊火焚く妻の大あくび 草城
たましひのさびしくいぶる蚊遣かな 草城
蚊遣火やみすぎよすぎの裏長屋 草城
土砂降りのいよいよ烟る蚊遣かな 万太郎
蜑が家の軒並ひくき草蚊遣 野風呂
蚊遣火の煙の末をながめけり 草城
みづうみに月のさしたる蚊遣かな 草城
蚊火げむり哀しきひとをかくしける 草城
月雲をいづれば燃ゆる蚊遣かな 不器男
炎々と蚊火見えそむる運河かな 青畝
蚊遣火のなづみて闇の咫尺かな 蛇笏
遠蚊火に見ゆる二人のやさしさよ< 青畝
翠微より蚊火の起居のうかむ時 青畝
遠蚊火がよべもこよひも小火のごと 青畝
蚊遣焚く家やむつまじさうに見ゆ 虚子
藺田を刈るさ中の駅の蚊遣かな 爽雨
峡の空高く真青なり蚊火焚けば 楸邨
黒部川発破とどろき蚊火暮れぬ 楸邨
蚊火煙月の襖にうつりけり 花蓑
蚊火それて灯が宝玉となりにけり 青畝
蚊火足して若者ばかり泊り客 貞
蚊遣火のなびけるひまに客主 虚子
遠蚊火のふと人影に遮ぎられ 林火
家中に蚊遣火の紅ただ一点 誓子
蚊火の妻二日居ぬ子を既に待つ 草城
蚊やりの香枕ひくくて眠られぬ 万太郎
沖の火のみえずなりたる蚊やりかな 万太郎
蚊遣火やくらし貧しく帯細く 真砂女
わが枷によろこびもどる牛に蚊火 爽雨
木曾人や蚊遣を腰の畑仕事 林火