和歌と俳句

阿波野青畝

国原

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

地虫出て金輪際をわすれけり

そりかへる額の花あり蜘が為

炎々と蚊火見えそむる運河かな

手をやれば笊を蹶りをる泉かな

紺青の蟹のさみしきかな

目を閉ぢてほほゑむおかめ南瓜かな

夕かげりおかの南瓜も慌し

うつくしき蘆火一つや暮の原

臥龍梅磴は畳みに畳たる

啓蟄の土洞然と開きけり

春の水獺の潜けば黄となんぬ

日照るとき魚介交り来涅槃像

哭いてゐる舌が真赤で涅槃像

山繭のひとつづつ居て垂れさがる

くちびるの墨ますれゐる安居かな

鬱々と蛾を獲つつある誘蛾燈

針金の灼けきはまりつ誘蛾燈

誘蛾燈しきりに墨を塗りをりぬ

蟻地獄釜中の塵のはじかるる

なにも居ぬごときが時の金魚玉

住吉にすみなす空は花火かな

立つを言吃りして見送りぬ

河豚宿は此許よ此許よと灯りをり

てつちりと読ませて灯りゐるところ

あひつれて煤躍りそめ炉火おこる

大山の火燵をぬけて下りけり