地虫出て金輪際をわすれけり
そりかへる額の花あり蜘が為
炎々と蚊火見えそむる運河かな
手をやれば笊を蹶りをる泉かな
紺青の蟹のさみしき泉かな
目を閉ぢてほほゑむおかめ南瓜かな
夕かげりおかの南瓜も慌し
うつくしき蘆火一つや暮の原
臥龍梅磴は畳みに畳たる
啓蟄の土洞然と開きけり
春の水獺の潜けば黄となんぬ
日照るとき魚介交り来涅槃像
哭いてゐる舌が真赤で涅槃像
山繭のひとつづつ居て垂れさがる
くちびるの墨ますれゐる安居かな
鬱々と蛾を獲つつある誘蛾燈
針金の灼けきはまりつ誘蛾燈
誘蛾燈しきりに墨を塗りをりぬ
蟻地獄釜中の塵のはじかるる
なにも居ぬごときが時の金魚玉
立つ鴫を言吃りして見送りぬ
河豚宿は此許よ此許よと灯りをり
てつちりと読ませて灯りゐるところ
あひつれて煤躍りそめ炉火おこる
大山の火燵をぬけて下りけり