和歌と俳句

阿波野青畝

国原

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広前ににほひたてたり年の豆

灯の宮の春日明神年の豆

恋猫に月の葛城醜けれ

野に出でてどこにかはある畦火かな

禅寺も落花の塵はとがめなし

花よりも安楽椅子のあるがよし

衣冠をば脱ぎすてたりし更衣

祭礼に太鼓ひたすら貴船かな

あやめ生ふ湖畔の馬頭観世音

茶屋の裏紺青にして夏の川

御成とぞの道だになかりけり

如法塔青葉若葉の翠微中

頂上の百合そちこちと立ちあがり

登山口大吊橋を躍らせり

大空に長き能登ありお花畑

戸の前に太刀の雪渓さかしまに

猿飛といふは涼しき渓を謂ふ

山涼し都忘れと聞くからに

月漏りてこころもとなき枢かな

一すぢの雲に遅月のつてゐし

風頭かぶりてを掘りにけり

水澄みて金閣の金さしにけり