風花の大きく白く一つ来る
雪空の針金の雪離れざる
虻のごととびまはりゐる屋根の雪
海暮れて日脚のびたる陸残る
波立てる池に北窓ひらきけり
やせんぼの柳あわてて伸びそめし
ふぶきゆく花をうけとむ甍かな
開帳や大きな頬の観世音
わが鵯を椿の守といふべきか
額の花其他は額の花に似て
早乙女の笠あづけゆく君の堂
赤富士の雲紫にかはりもし
沙羅は散るゆくりなかりし月の出を
寝るまでは閻魔の蝋を守りけり
手より舞ふたなばたさまを結びけり
生きてゐることがしるしと秋遍路
果物帖のことも子規忌の物語
我ありロダンの男あり天高し
大納言乾して吉野の霧寒し
苔にある木の実日に憑き日に憑かれ
榎の実食ふ二十羽も一かたまりに
冬薔薇や青天井に蔓まげて
ゐのししの鍋のせ炎おさへつけ
この町に墓地を買ひけりクリスマス
白きことたぐひもなしや木の葉髪
汐泡をはなすまじとす海雲かな
さしあげし手に一枚の大鮑
「みつ」と書く桶を頼りの鮑海女