和歌と俳句

阿波野青畝

紅葉の賀

風花の大きく白く一つ来る

雪空の針金の離れざる

虻のごととびまはりゐる屋根の

海暮れて日脚のびたる陸残る

波立てる池に北窓ひらきけり

やせんぼのあわてて伸びそめし

ふぶきゆく花をうけとむ甍かな

開帳や大きな頬の観世音

わが鵯を椿の守といふべきか

額の花其他は額の花に似て

早乙女の笠あづけゆく君の堂

赤富士の雲紫にかはりもし

沙羅は散るゆくりなかりし月の出を

寝るまでは閻魔の蝋を守りけり

手より舞ふたなばたさまを結びけり

生きてゐることがしるしと秋遍路

果物帖のことも子規忌の物語

我ありロダンの男あり天高し

大納言乾して吉野の霧寒し

苔にある木の実日に憑き日に憑かれ

榎の実食ふ二十羽も一かたまりに

冬薔薇や青天井に蔓まげて

ゐのししの鍋のせ炎おさへつけ

この町に墓地を買ひけりクリスマス

白きことたぐひもなしや木の葉髪

汐泡をはなすまじとす海雲かな

さしあげし手に一枚の大鮑

「みつ」と書く桶を頼りの鮑海女