奈良幽か朝のあしびに鐘わたる
馬酔木野やかしこ法相ここ華厳
林なす花の馬酔木野巫女来ぬる
あしび咲く辺をすぎゆけば金の鴟尾
天に向き地に向き椿皆動く
夕鴉眠らむとす藤暗ければ
ぼんのくぼ払へばリラの虻の鳴く
天竜は濁り茶山は深緑
蜜柑咲く入江碇泊船燈り
梅雨夕焼電車の席がすいてゐて
嵐山微雨のにごりに張りきつて
白き巳の絵馬を重ねて黴の壁
武蔵野の闇を端居の顔横に
二日避暑お寿司のにほふ刻が午
砂糖水くるくる廻し尼の箸
銀河より聞かむエホバのひとりごと
子午線に流れ星尾を曳きにけり
兵燹の七十二坊天の川
月の山大國主命かな
味酒を月の幸とし仰ぎ酌む
かんばせの端に耳たぶ虫を聞く
吾亦紅折らましものを霧こばむ
陶房の障子洗ひてまだはめず
丸窓を雁渡る間のありしかな