和歌と俳句

天竜川

天竜の黴雨や白髪の渡し守 許六

真下なる天龍川や蕨狩 風生

赤彦
天龍の川ひろくなりて竹多し朝は霧の凍りつき見ゆ

赤彦
霧のなかに電車止まりてやや長し耳に響かふ天龍川の音

赤彦
はだら雪降りける松のあひだより覗き見にけり天龍の川

茂吉
山々に うづの光は さしながら 天龍川よ 雲たちわたる

茂吉
むかうより 瀬のしらなみの 激ちくる 天龍川に おりたちにけり

茂吉
信濃なる 天龍川の たぎちゆく 寒きひびきの 常ならなくに

茂吉
きはまりて 晴れわたりたる 冬の日の 天龍川に たてる白波

茂吉
天龍川の 中つ瀬にして 浪だてり しぶきはかかる わが額まで

茂吉
ひた晴れに 澄みきはまれる 冬空や きのふまでここ 時雨ふりしか

茂吉
天龍を こぎくだりゆく 舟ありて 淀ゆきしかば 水の香ぞする

茂吉
南へ ながるる川を 漕ぎ来つる 舟は走れり たぎつ瀬ごとに

茂吉
天龍の いく激つ瀬を くだり来て 泡だつみづを 見れど飽かずも

茂吉
砂の丘 幾段になりて 高まれる 天龍川は 親しきろかも

迢空
雨と鳴る 天竜の音ふけにけり。寝つつ疲れの深きを 思ふ

天龍のひびける闇の凍豆腐 蕪城

天龍へ崩れ落ちつつ眠る山 たかし

天龍の落つるを阻み眠る山 たかし

天龍も行きとどこほる峡の冬 たかし

冬山の威に天龍も屈し行く たかし

天龍のへりに椅子おく夕涼み 風生

朝櫻揺らぎ天龍ながれたり 秋櫻子

天竜は濁り茶山は深緑 青畝

天竜奔る僅かな片陰だにすらも 草田男

炎天奔流何に留意のひまもなく 草田男

天竜の日洩れ片陰息づきぬ 草田男

天龍に落ちむばかりに干布団 青畝

沙平ら天龍川の灼けつくす 青畝