和歌と俳句

釈迢空

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この村や 屋並みそろはず。道に向き 牀踏む馬を 多く飼うひたり

萩薄 ふし乱れたり。村の馬に飼うふべき時は 到ちけらしも

雨と鳴る 天竜の音ふけにけり。寝つつ疲れの深きを 思ふ

寺山は 鳴く蝉の声しづまれり。ここに湯を乞ひ 立ち行かむとす

病うどの宿せぬ湯屋に 来入り居り、夜を久しく 起きて居るなり

湯の町にあそべる 人の群れ見れば、疾めるも 人はたのしくあるらし

今日ひと日霞みくらして ゆふべなり。遠音の鳥は 谷に行きけむ

あらた代の睦月朔日。こと足らぬ憂いひはあれど、言ふこともなし

しづかなる心うごきや。山松に風とよむらし。ありつつ見れば

並みよろふ山青垣に 日のあたるひと日 しみらに 春ささびしき

年どしに 山家さびしくなりゆきて、春さび居りと こと告げ来たる

若き時 むごく叱りし教へ子の 春の手紙の あらたまりけり

雪荒れて 山に命をおとしたる許多の上を思ふ。睦月に━━

山びとの娘の 市にうられ来る ともしき年も、過ぎにけらしも

山荒れて 秋ひと照りの時の間もなかりし年も、あらたまりたり