和歌と俳句

釈迢空

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うつうつに 心むなしくゐるわれを つくづくと思ふ。やみにけらしも

船まどのゆれ 強しと思ふ。うつらうつら 睡り薬は、ききて来らしき

生きよわる人の命を ひたぶるに惜しと思へど、旅のすべなさ

はろばろに 浮きて来向ふ海豚のむれ。委ら細らに 向きをかへたり

曇りとほして、四日なる海も 昏れにけり。明れる方に 臥蛇の島見ゆ

おしなべて 山かすむ日となりにけり。山にむかへる心 こほしも

山原になほ鳴きやまず 夜のふくる山の雉子を 聞きて寝むとす

山の夜に 音さやさやし。聴えゐて、夜ふくる山の霧を おもへり

木立ち深くふみゆく足の、たまさかは、ふみためて思ふ。山の深さを

雪ふみて、さ夜のふかきに還るなり。われのみ立つる音の かそけき

やすらなる息を つきたり。大倭 山青垣に 風わたるなり

三輪の山 山なみ見れば、若かりし旅の思ひの はるかなりけり

深々と 山の緑のかさなれるうへに い寝つつあり とし思ふ

さ夜ふかく 起きて歩けば、山のうへ 神のみ殿に 音こたふらし

鳴子の阪 すぎて夕づくこの道や━━。姿見ず橋を 思ひか行かむ

をとめ髪 さだすぎ落つるきのふまで、ひたぶる われより来しものを

若き時 はれのよそひと著惜しみし、見れば泣かれぬ。そのとぼしきに