和歌と俳句

釈迢空

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日に五たびの汽車 のぼりきりて、鰺个沢 家ひたひたと並ぶ━━海側

海側に 汽車よりおりて、乗り継がむ車待つほどに 曇り濃くなれり

みちのくの十三湊。渡り来る人絶えにけむ 昼波の ひびき

昼さめて 障子にうごく波の照り うつうつ見れば、風邪ごこちなる

北国の ほどろに曇る夕やけ空。歩み出にけり。湊はづれまで

磯原に つぶさに 並びうつる見ゆ。青年訓練の人そろへなり

大阪のよき人ひとり 宿すと言ふ。その人を見ず 立ち行かむとす

とびとびに 村は薄の岡のなか━━。ゆくりなく見ゆ━━。雪よけの垣

今日ひと日 ながめ暮してゆふべなり。越路をすぎて 出羽に入る汽車

霙霽れて 浜にぎはへり。はたはたも 幼鰤もみな 舌につめたき

鰰のはらごの 口に吸ひあまる腥さにも したしまむとす

ほのぼのと 思ひ見るすら雪深き 睦月の山は、ひそかなりけり

四方山の根雪かすめる村にして、鬼の面を 人くれにけり

ひたすらに 人ことわりて居る我を 知多万歳も おとづれぬかな

春祭りの鬼の踊りの面ひとつ 彩り暮す。きのふも けふも

耶蘇誕生祭も 過ぎ行きにけり。よべの雪のすでに堅きを 掘り捨てむとす

家の姥に 物など買へとくるる銭。畳に置きてよろこぶを 見る

暮れの 二十九日におしつまり 雪ふりにけり━━。旅立たず居り