和歌と俳句

芦ノ湖

晶子
芦の湖いく杉むらの紺青の下にはつかにわが見てし時

晶子
みづうみの底より生ふる杉むらにひぐらしなきぬ箱根路くれば

千樫
宵闇の旧街道をわがくれば天の川白し芦の湖の上に

蘆の湖の湛へしづかに初蕨 秋櫻子

みづうみをこえくる雨や初蕨 秋櫻子

蘆の湖の桟橋に佇つ夜の秋 たかし

稲妻の四方に頻りや山の湖 たかし

目覚むれば潮騒ぎをる野分かな たかし

新涼や膳に上りし湖の魚 たかし

五月富士屡々湖のいろかはる 楸邨

新涼の荒も好もし湖の宿

火山湖にとほく小さき皐月富士 蛇笏

手足ぬくく生くるはよろし雉子の声 草田男

遊覧船行くや阻める散紅葉 秋櫻子

湖渡る冬山の意を近々と 汀女

湯本

玉簾の滝の千筋のもつれなく たかし

大湧谷

萱の芽を見たり地獄の鳴るほとり 楸邨

強羅

雨あとの石あらはなる坂紅葉 たかし

温泉の香のただよひゐるや夕紅葉 たかし

茂吉
白雲は長く棚なし箱根路の強羅の天の月てりわたる

茂吉
しづかなる秋の日ざしとわれ言ひて九月二日に強羅をくだる

茂吉
片よりにあらぶる雲は寄りながら強羅の天の月冴えにけり

夕焼くるかの雲のもとひと待たむ 多佳子

茂吉
箱根なる 強羅の山に ひとり臥し ひとり寂しき おもひをぞする

茂吉
よるの犬 長鳴くきこゆ 箱根なる 強羅の山に めざむるときに

茂吉
たたかひの をはりたる後 五年にて 強羅の山の 入りがたの月

茂吉
東京の あつき日ざかり のがれ来て 強羅の山に 老い呆けむとす

仙石原

夕冷や心あづけし青嶺より 汀女

沓脱の小さき靴も虫の夜に 汀女

心中の崖を見あぐる氷柱かな 不死男