和歌と俳句

古泉千樫

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帰り来て朝な夕なにわがあるく地に咲き満てる山白菊の花

木曽川の流れはいまだ見えずけり嵐吹き明る麦畠の路

犬山焼の素焼の色をなつかしみものゑがきつつ夕ぐれにけり

すこやかになりたりと思ふ朝湯いでて山葵茎漬かみつつあれば

奥山より子らが採り来しいたどりの太茎もらひてわれ食みにけり

まむかひに箱根草山ながめつつ松の花ちる温泉にひたり居り

しげり立つぽぷらの青葉いちじるくか黒くなりて風にさやけり

街にいでてうまきもの食べむと思へども夕べの風は身に沁みにけり

青葉かげともる灯見れば好ましきビイフステイキを食ひたかりけり

山の木に霧ながれつつ渓のべにうすくれなゐの秋海棠の花

杉むらのあはひ洩る日のほがらかに秋海棠の花露にぬれたり

秋海棠うつりて匂ふ谷川の水ふみてゆく心ひそけさ

天の原清澄の山おきつ谷世にこもりたる秋海棠の花

真夏日の左千夫の忌日朝はやく家かたづけてひとり坐れり

一雨のゆふだち霽れて家いづる心うがすがしみ墓にまゐる

夕立にぬれわたりたる道の上に青桐の花散りこぼれつつ

亀井戸のわが師の墓に詣で来て逢う人もなし今日の忌日に

夕ぐれて軒並みくらしひむがしに峯雲たかく黄にかがやけり

墓地かげの夾竹桃の花の色くれなゐ黒く夕ぐれにけり

ゆくものは逝きてしづけしこの夕べ土用蜆の汁すひにけり

箱根山み山もさやに繁み生ふる笹の葉の上に朝の露みてり

山の上のみ寺にあれば天の川よひよひ清くさきらかに見ゆ

宵闇の旧街道をわがくれば天の川白し芦の湖の上に

のぼり来し山のいただきの草生にはしづけく咲けり薄雪草の花

病みつつも山に登れる悦びのかなしきかもよ薄雪草の花


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