和歌と俳句

古泉千樫

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背戸の森 椎の若葉に あさ日てり ひとり悲しも 来し方おもへば

椎わか葉 にほひ光れり かにかくに われ故郷を 去るべかりけり

草鞋はきて まなこをあげぬ 古家の 軒の菖蒲に 露は光れり

家家に さつき幟の ひるがへり しかしてひとり 吾が去りゆくも

うちとよむ 大きみやこの 入口に 汽船はしづかに 入りて行くかも

たかだかと 鉄橋見えて みやこべの 大川の口に 船つきにけり

大川の 水のおもてを 飛ぶつばめ 軽きすがたの まがなしきかも

塵けむる ちまたに吾は 奔しきぬ 君もかなしく 出でてきたらむ

わが待つや とどまる電車 一つごとに 人吐きゆけど 似る人もなし

あからひく 日にむき立てる 向日葵の 悲しかりとも 立ちてを行かな

夜のまに 雨ふりけらし 屋根ぬれて 朝明涼しく 秋づきにけり

窓さきの 屋根の小草の 白き實の ひそひそ飛びて 昼の静けさ

思ひ湧く 大き都に せむすべの たどきを知らに 昼寝するかも

都大路 人満ち行けど みち行く人ら いささかもわれに かかはりはなし

暑き日の 夕かたまけて 草とると 土踏むうれし この庭にして

よき友に たより吾がせむ この庭の 野菊の花は はや咲きにけり

むし熱き 市路さまよひ なりはひの たづき求むと 日にやけにけり

年久に 思い恋ひにし 蓼科の 山のいでゆに 今あみにけり

蓼科の 山の夜の湯に あみ居れば 遠くひびかふ 湯の川の音

あさぼらけ いでゆをいでて 秋ふかき 蓼科山の 草ふみゆくも

杉村の あはひ洩る日の ほがらかに 秋海棠の花 露にぬれたり

ふるさとの 秋ふかみかも 柿赤き 山べ川のべ わが眼には見ゆ

打日さす 都の土を 踏みそめて とよみしこころ いつか消につつ


額田王 鏡王女 志貴皇子 湯原王 弓削皇子 大伯皇女 大津皇子 人麻呂歌集 人麻呂 黒人 金村 旅人 大伴坂上郎女 憶良 赤人 高橋虫麻呂 笠郎女 家持 古歌集 古集 万葉集東歌 万葉集防人歌
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