和歌と俳句

古泉千樫

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桃の花くれなゐ曇りにほやかに寂しめる子の肌のかなしき

桃の花曇りの底にさにづらひわれのこころのあせりてもとな

桃の花くれなゐ沈むしかすがにをとめのごとき女なりけり

さす潮のかよふはたての水上に合歓はやさしくにほひてあらむ

こほろぎはいとどあまねく鳴きふけりわがひとり寝の夜半のしたしさ

鷺の群かずかぎりなき鷺のむれ騒然として寂しきものを

雑然と鷺は群れつつおのがじしあなやるせなき姿なりけり

物おぞく鷺は群れ居り細長き木のことごとに鷺の巣の見ゆ

闇ふかく鷺とびわたりたまゆらに影は見えけり星の下びに

かすかなる星の下びをつぎつぎに飛び行く鷺の見えつつもとな

郊外の霧深みかも今鳴くはほろすけほうほう梟のこゑ

秋の稲田はじめて吾が兒に見せにつつ吾れの眼に涙たまるも

秋晴るるこの原なかの小さき池子らはひそかに来り泳げり

郊外の町の夜霧に湯屋の灯の火かげあかるし遠くは照らず

秋晴の代々木が原の松かげにひとり息する吾れならなくに

朝早み電車のりかふる三宅坂ゐる濠を立ちてこそ見れ

朝早きさくら田の濠靄にほひ鴨うち群れていつぱいにゐる

水の上に下りんとしつつ舞ひあがるのみづかきくれなゐに見ゆ

下総の節は悲し三十あまり七つを生きて妻まかず逝きし

長塚の節を久に思はずけり月に光れる白梅の花

しつとりと五月朝風街を吹き乳の匂ひの甘き花あはれ

まひる日にさいなまれつつ匂ひけりやや赤ばめる紫陽花のはな

炎天のひかり明るき街路樹を馬かじり居り人はあらなく

日盛りの街樹のかはをかじり居る馬の歯白くあらはに光る

眞なつ日のひでりのそらの蒸し曇り養魚池の波ひかり寂しも


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