和歌と俳句

合歓の花

千樫
さす潮の かよふはたての 水上に 合歓はやさしく にほひてあらむ

白秋
夕野良の 小藪が下の 合歓の花 もも色薄う 揺れて霧の雨

白秋
夕野良の 小藪が下の 合歓の花 きり雨かかる 雛燕のこゑ

朽臼に又一年や合歓の花 泊雲

ねむの花の昼すぎの釣鐘重たし 放哉

その時われ八歳なりし合歓の花 風生

山風のふき煽つ合歓の鴉かな 蛇笏

燕子とぶ水荘の合歓花もちぬ 麦南

茂吉
山こえて 二夜ねむりし 瀬上の 合歓花のあはれを この朝つげむ

扉うごけり合歓の花垂れたり 山頭火

蛇女みごもる雨や合歓の花 龍之介

高枝に花めぐりあへり午下の合歓 蛇笏

茂吉
合歓の花 ひくく匂ひて ありたるを 手折らむとする 心利もなし

湯煙の消えてほのかや合歓の花 虚子

夕月や槐にまじる合歓の花 龍之介

荘厳の甍に暮れよ合歓の花 龍之介

七宝の柱に暮れよ合歓の花 龍之介

金身の仏おがまん合歓の花 龍之介

喇嘛寺のさびしさつげよ合歓の花 龍之介

山風の暁落ちよ合歓の花 龍之介

牧水
合歓の木ぞ ひともとまじれる 杉山の 茂みがあひに 花のほのけく

牧水
ねむの花 匂ふ川びの 夕あかり 足音つつましく あゆみ来らしも

芝山の裾野の暑気やねむの花 蛇笏

合歓の花濃き夕闇のせまりけり 万太郎

受話機もて笑ふ顔見ゆ合歓の窓 しづの女

ねむの花の昼すぎの釣鐘重たし 放哉

合歓咲くや此処より飛騨の馬糞道 普羅

花合歓に蛾眉ながながし午後三時 茅舎

寒気だつ合歓の逢魔がときのかげ 茅舎

総毛だち花合歓紅をぼかし居り 茅舎