和歌と俳句

久保田万太郎

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お屋敷の塀のはづれのかな

白粉を塗る不所存や蚊喰鳥

ほととぎす根岸の里の俥宿

垣結へる同じ構へやほととぎす

合歓の花濃き夕闇のせまりけり

神田川祭の中をながれけり

蚊帳つるや晦日の宵の更けまさり

消えぬべき月の光や金魚玉

幌の紗のしばらくかげる若葉かな

あけやすきえにしとばかりこたへけり

梅雨の草蝶を沈めし深さかな

梅雨の海草にしづみし遠さかな

わだつみの色深めけり梅雨の壁

空梅雨ときはまる空の照りまさり

梅雨寒く四谷怪談消えにけり

ふけそめし灯かげ淋しや青芒

うさぎやにあととり出来しかな

番町の空に立てたる幟かな

夕あらしいよいよ強き幟かな

らんぎりのうてる間まつや若楓

短夜のあけゆくあはれありにけり

芝居みて泣きし顔はも明易き

芥川龍之介佛大暑かな

つづきもの書きはじめたる青簾

うち日さす都べ淋し蓮の花