和歌と俳句

久保田万太郎

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煤掃やうつりうつりて向島

永代の橋から海の時雨かな

短日や摺師は知らぬ絵の心

短日やけふの案内の泉岳寺

短日やのれんのそとの店の音

鴛鴦かへる寺とこそ聞けなつかしき

本所はしぐれぬよしの寒さかな

大雪のあとの雪なる枯野かな

炭つぐや枯野の宿の爐二つ

浅草の塔がみえねば枯野かな

埋火を抱いて歌よむ骸かな

煤掃も昨日に過ぎし深雪かな

短日や永代橋の帆前船

草の葉の凍てぬがそよぐかな

みぞるれば傘もさいたり海鼠売

冬の夜や今戸八幡隅田川

寒き日や障子をあけてすぐに崖

廻廊の下が抜けらるゝ寒さかな

言問のひまなぐあひや小六月

時雨るゝや麻布二の橋三の橋

短日や麻布二の橋三の橋

水鳥や紺屋の池も向島

熱燗やとかくに胸のわだかまり

袖垣のかげにつく灯や冬の雨

植木屋がけふから這入る師走かな