和歌と俳句

久保田万太郎

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道かへていよいよふかき落葉かな

なにはやも落葉の門の灯りけり

はつしぐれコスモスいまだ咲きやめず

石段のぬるゝにはやきしぐれかな

ごまよごし時雨るゝ箸になじみけり

燗ぬるくあるひはあつくしぐれかな

いくらでものめたるころのおでんかな

手賀沼のわけなくみゆる枯野かな

一句二句三句四句五句枯野の句

蓮いけにはすの痕なき師走かな

冬休とゞろに波のひゞくなり

酉近き星おし照りてゐたりけり

むさしのの寺の一間の桃青忌

子規にまなび蕪村にまなび桃青忌

一むかしまへの弟子とや桃青忌

小春空たまたま雲の生れつぎ

草の尖さはる小春の障子かな

北窓をふさぎし鐘のきこえけり

短日やどこにきこゆる水の音

娘おくみ手代要助うきねどり

幾何は好き代数はいや浮寝鳥

障子あけて飛石みゆる三つほど

雪空の下ゆ来てこの火鉢の火

朝の日のあたる火桶に手をかざし

われとわが吐息のつらき火桶かな