和歌と俳句

久保田万太郎

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薬鍋かけし火鉢のすぐに目に

あはれなり咳入りてさへなまめけば

ゆふぞらのひかりのこれる師走かな

すゝはきのはじまる屏風たゝみけり

一つづつうけて十猪口や年忘

年の暮山のかゝりて風のあり

さいなんのこれですめばや年の暮

柿の苗うる店ばかり十夜かな

茶の花におのれ生れし日なりけり

みまはして石蕗の黄のさてにぎやかや

髪置やたまたまけふの波の音

七五三日和となりし人出かな

木の葉髪泣くがいやさにわらひけり

くま笹の葉のたくましき日のつまり

短日や不足をいへばきりのなき

短日や野天写真の反射板

短日のカツレツ五十五銭かな

くすぐりをくすぐらずいふ冬の雁

いろは仮名四十七文字寒さかな

分別も律儀も寒き世なりけり

いつからの猫背のくせぞ根深汁

憎き奴鰒でいのちをおとしけり

石摺の襖に冬をこもりけり

逃げてゆく日脚を追はず冬ごもり

冬ごもりつひに一人は一人かな