和歌と俳句

久保田万太郎

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新海苔の艶はなやげる封を切る

わざはひも三年たちし小春かな

しぐるゝや橋へとみちのやゝ高く

枯菊を焚きたる灰のあがりけり

おでんやにすしやのあるじ酔ひ呆け

熱燗にうそもかくしもなしといふ

毛糸編むうしろに立つを誰とせむ

浅草の市おとゝひのみぞれかな

クリスマス真つ暗な坂あがりしが

鎌倉に馬車の往来やクリスマス

墓ぬらす雨のふるなり年の暮

神の留守今戸の狐ならびけり

冬浅き月にむかひて立ちし影

鎌倉の冬めく月夜得てしかな

ひろびろと日のさしてゐる返り花

東京にの吹きすさぶかな

十二階みえしあたりの冬霞

冬霞土手堀切につゞきけり

巻いてある日除に遠く冬の山

観音の市近づけり都鳥

嘴あかきあはれまづ見よ都鳥

なまこ生きてゐるなり雪つもるなり

膳に今茶碗蒸のる冬ごもり

三の酉の市しばらく風の落ちにけり

つかのまにくもり果てたる落葉かな