和歌と俳句

師走 しはす

耳塚の前ひろびろと師走かな 茅舎

師走の夜の釣鐘ならす身となりて 放哉

師走の夜のつめたい寝床が一つあるきり 放哉

はやばやと師走の稿を終りけり 石鼎

師走閑に羽つくろへる孔雀かな 石鼎

橋を渡り師走の町飾りする見て戻る 碧梧桐

鉛筆でかきし師走便りの末の読みにくゝ 碧梧桐

師走の木魚たたいて居る 放哉

谷川に幣のながるる師走かな 蛇笏

食堂や師走の花のいきいきと 草城

退営や師走はじまる堺筋 草城

師走のポストぶつ倒れゐた 山頭火

師走夕暮、広告人形うごく 山頭火

鐘が鳴る師走の鐘が鳴りわたる 山頭火

街は師走の広告燈の明滅 山頭火

街は師走の売りたい鯉を泳がせて 山頭火

師走のゆききの知らない顔ばかり 山頭火

何もなき師走の流れ早きかな 淡路女

そろばんをおくや師走の女房ぶり 淡路女

子供等は羽子突いてゐる師走かな 淡路女

妹が門師走の月のけざやかに 万太郎

こんなところに師走いそがしい家が建つ 山頭火

温室の扉に師走の街遠ぞける 悌二郎

おはぢきを詰めたる箱か母師走 汀女

眉繊き師走の女送金す 桃史

街師走わがポケットに小銭鳴る 桃史

二鉢の盆梅に夜の師走かな 石鼎

鑿の音師走をきざむ如くなり みどり女

起きし音に暗し師走の十五日 かな女

出逢ひたる人もそゝくさ師走街 みどり女

羽子を買はんと師走原稿書くなりし かな女

坂本の里の蕎麦屋の師走かな 万太郎

大空のあくなく晴れし師走かな 万太郎

石段の下に師走の衢あり 茅舎

馬多き渋谷の師走吾子と佇つ 草田男

うすやみに街角月を得し師走 蛇笏

師走人おおと焚火を避け過ぎぬ 汀女

汝を世に送る大いなる夜の師走 みどり女

蓮いけにはすの痕なき師走かな 万太郎

名號を母が賜ひし師走かな 波郷

ゆく人の眸のたのもしき師走かな 信子