大寒や城壁めぐる朝餉前
レコードを聴きに駈けだす氷かな
煙草より菓子たふとくて悴める
相對ふ三十路の顔や年の暮
名號を母が賜ひし師走かな
城壁のくづれんとして氷かな
夢に見し事問ひくるや年の暮
降りいでしうつぱり低き夜の雪
討伐隊まだかへりこぬ暮雪かな
手袋やいま薬莢を拾ひつも
持古りし七番日記祀りけり
一茶忌や父を限りの小百姓
新松子その葉をむしることなかれ
新松子父を恋ふ日としたりけり
古暦戦場とほくなりしかな
冬の月ベッドにすがり糞まれば
渤海に傾ける野の兎狩
飛行雲しばらくあるや年の内
妄執や書を買置かす年の暮
痩せし身をまた運ばるる寒の内
病院車寒の鶏冠山下なり
松濱のかがやく見よや寒の海に
よろめくや白衣に浴ぶる冬日ざし
よろめくや寒の夕日の黄金なす
道傍に海あふれたる暮雪かな
ひきかぶる衾みじかし寒の宿
温泉の海や月夜につづく寒日和
東京へ何日送らるる雪催ひ
口に出てわが足いそぐ初しぐれ
東京に出て日は西す鳰の岸
鳰の岸女いよいよあはれなり
風雲の少しく遊ぶ冬至かな
餓師走花八つ手などちつてなし
桑括る女をみる目ながしけり
冬の日を飛越す鷺の薔薇色に
悴みて瞑りて皇居過ぎゐしか
肥汲の汲んで了ひし年暮れて
橙に貝殻虫母は老いしかな
霜の槇父の手紙の世にありや
年越や几の上に母の銭
倖か死果てたるも年守るも
百万の餓鬼うづくまる除夜の鐘