石田波郷
冬暁のわが細声の妻起せず
松籟や白息互みにながし佇つ
人の語を冬雁のごとく聴きてをり
朱き裸婦圖冬日林を出て照らす
扶け起さるるや濃霜衝迫す
冬日の妻よ吾に肋骨無きのちも
足袋脱ぐ妻ひとりの衾踏み立ちて
悴み病めど栄光の如く子等育つ
枯園を師が去りしかばみつめをり
咳かじとす肋無き胸抱き抑へ
枯園より見えて寝嵩やうすれけむ
手術経てはじめての雨枯園に
睡しや妻枯園の雨川瀬めく
冬越さむ遠来し友の言なれば
冬曙六人の病床うかびそむ
冬夜踏む病室の床音をしのぶ
冬日満つ月桂樹まで歩きだす
冬日の吾子少年少女たる日までは
冬鶯われは病弟子胸あつし
森の圓舞曲頬に柔か霜下りず
寒き顔起こし起こして痰きれず
枯草原白猫何を尋めゆくや
枯園を亡骸いつせいに見られ行く
枯櫟群れつつ猫をさへぎらず
クリスマス前夜水慾し熱あるか
クリスマス肋除られて打臥すも
クリスマス七寮に満つ患者等に
粧ひて胸うすき者よクリスマス
病む師走わが道或はあやまつや
横光忌黙契いよよ頑に
除夜の胸陥没部位は肋無し
除夜の妻ベッドの下にはや眠れり
子規の年われ生繼ぎぬ凡なれば