ふつふつと胸鳴る寒夜起き徹す
跫音高し青きジヤケツの看護婦は
寒林を三人行くは群るる如し
頂は見えぬ赤松冬日沁む
涙はふるままに冬日の未亡人
櫟原雪無き冬を了ふるらし
雪無くて過ぎぬ友亡き後の冬
林檎紅し妻は帰りて居ぬままに
牡蠣食へり重たき肩を起しては
磔刑の如書を冬の書見器に
外套を脱ぐ妻罪びと吾が仰ぐ
豆撒けば楽世家めく患者等よ
豆を撒く吾がこゑ闇へ伸びゆかす
曇天と古草の間屍行く
擔送車雪の廊下に夜明けをり
雪はしづかにゆたかにはやし屍室
赤き手を口に看護婦雪はげし
力なく降る雪なればなぐさまず
切株を包む古草雪はとべり
癒らざる方へ打臥す雪降り出す
雪消つつ木々の箴言めけるかな
雪後の木々楸邨は癒えて起きたらむ
雪後来し子の柔髪のかなしさよ
雪解くる道は療養所を出でゆく