和歌と俳句

牡蠣

牡蠣飯冷えたりいつもの細君 碧梧桐

牡蠣の酢の濁るともなき曇りかな 虚子

だまり食ふひとりの夕餉牡蠣をあまさず 楸邨

松島の松に雪ふり牡蠣育つ 青邨

牡蠣うまし大焼雲を眉間にし 赤黄男

牡蠣食へり重たき肩を起しては 波郷

癒えよとてくれし牡蠣くふ癒えんとし 楸邨

屋根瓦波うつよ牡蠣うまからん 耕衣

牡蠣鍋の葱の切つ先そろひけり 秋櫻子

製錬島鉄鎖に牡蠣のからめるも 誓子

生きてゐる牡蠣その殻のざらざらに 誓子

牡蠣の実の粒粒生ける盛り上り 誓子

牡蠣殻を積みては山を高くする 誓子

牡蠣殻の同じ高さの双子山 誓子

牡蠣むき

蠣むきや我には見えぬ水鏡 其角

蠣むきの手に明りさす冬楓 支考

牡蠣をむく火に鴨川の嵐かな 虚子

牡蠣むきの殻投げおとす音ばかり 汀女

牡蠣を剥くをりをり女同士の目 楸邨

比喩探しをればするんと牡蠣剥かる 不死男

牡蠣船

牡蠣船にありて文来る誰よりぞ 碧梧桐

牡蠣舟のともりて満ちぬ淀の川 鬼城

牡蠣船に枯木の影や月の下 石鼎

牡蠣船の障子手にふれ袖にふれ 碧梧桐

牡蠣船の屋根に鴉が下りたのを見て黙りたり 碧梧桐

牡蠣舟に上げ潮暗く流れけり 久女

牡蠣船や雪に絶えたる楫の音 秋櫻子

牡蠣船や静に居れば波の音 草城

牡蠣船にもちこむわかればなしかな 万太郎

広島や市電に牡蠣の桶持ちて 立子