和歌と俳句

山口誓子

青銅

雪嶺を連ねて阿蘇の火山系

獣類も病みてもの憂し焚火見る

蛍光の蒼き雪道末世なり

口ゆがむ薬つくれり雪高野

墓見ゆる高野の坂の橇遊び

顔洗ふ水の堅凍法の山

密教の山池凍てて不透明

の降る宙ゴンドラに女子ひとり

折れるまで氷柱大岩壁のもの

氷壁に着くゴンドラの終の駅

スキー煖炉スキーに乗らぬ吾も寄る

岩の背をここに露はす雪の嶺

雪雲が通る儀礼の雪降らし

製錬島鉄鎖に牡蠣のからめるも

単線となり吉野線深霞

製練島霞む大きな島なるらし

近寄るまで大き製錬島霞む

ひた霞む島に硫酸液造る

死したるを焼く島同じ霞む

獅子に似る耕牛畝に前肢かけ

遠き海苔粗朶蜃楼と思ひたし

海女達の岩間に脱ぎし紅きもの

太平洋船なきときを海女潜る

縋るもの倚るものなくて海女泳ぐ

墓地の上まで皮剥ぎの修羅落し

さくら咲くいつも夜に来る火葬島

何事もなかりしごとく落花浮く

いまは咲く颱風を娶る紀伊

激流に短か藤房花終る

死の島に属して岩に鵜がとまる

炎天に手を腰汽車の来るを待つ