山口誓子
青銅
ある限り出羽の浮雲夕焼けて
夕焼の黒くなりゆく出羽の国
雪渓に水分の神立ち給ふ
雪渓の下なる賽の河原思ふ
冷泉にしぼりしタオル眼ひやす
大河いま停滞の時夏座敷
炎天に清流熱き湯なれども
炎天の噴湯を見れば太初なり
みな紅き尾燈去りゆくビヤガーデン
夏の暮テトラポットの亡者達
悲しみが立てるよ奈良の雲の峰
山越しに峰雲太平洋のもの
風鈴を吊る海よりの広き風
火の道のばらばらに解け揚花火
月一夜仏の許に遺髪あり
墓所とせし淡水の湖月照らす
霧に傷み提燈黒き修験道
北海の霧の中にて神隠し
いつも忌に横顔の子規老いし子規
枯原を見て風葬をあやしまず
日向ぼこ蜜柑山にて糖化して
寒造り渚の如く米沈む