和歌と俳句

雲の峰

生々と切り株にほふ雲の峰 多佳子

雲の峯けふの昼餉もこんにやくか 楸邨

雲の峯のしかかりたる遺骨かな 楸邨

雲の峯ふるさとに待つものなし 楸邨

母の家立出づるより雲の峯 汀女

雲の峰通行人として眺む 耕衣

雲の峰けふの主なる刻も過ぐ 誓子

雲の峰立ちてのぞける乳母車 多佳子

薔薇色の雲の峰より郵便夫 多佳子

雲の峯崩るる児孫たる我に 耕衣

全力か否か崩るる雲の峯 耕衣

崩れし雲の峯がバックで雲の峯 耕衣

厚餡割ればシクと音して雲の峰 草田男

雲の峰縦向きに魚ならべたり 草田男

聖蹟はすなはち廃墟雲の峰 万太郎

死海みゆるとのみや雲の峰 万太郎

雲の峯王冠紅く暮れのこる 誓子

海によろこびあり雲の峰うつりをり 林火

老鶯の限る空より雲の峰 たかし

赤岳ゆ南なびきに雲の峰 たかし

雲の峰なほ峰づくる逢はぬも佳し 節子

雲の峯鳴くとき鷺は線のごとし 楸邨

運不運人のうへにぞ雲の峰 万太郎

雲の峰けふまたおなじかたにかな 万太郎

雲の峯人煙細く触れにゆく 静塔

ひらひらと海女潜り消ゆ雲の峰 真砂女

天を灼く積乱雲の育つ峡 林火

昂りてのぼる峯雲赤子泣き 林火

雲の峯途上にして揉む土不踏 草田男

踊意先づ指に走りて雲の峯 草田男

雲の峰わが選句業覗き込む 誓子

並び立つ松の蕊あり雲の峰 虚子

峰雲や泣けば痛げに蒙古斑 不死男

犬にも死四方に四色の雲の峰 三鬼

雲の峰人間小さく働ける 立子

けふの果紅の峰雲海に立つ 多佳子

乳母車帰る峰雲ばら色に 多佳子

峰雲も円空の彫り海に立つ 誓子

悲しみが立てるよ奈良の雲の峰 誓子

山越しに峰雲太平洋のもの 誓子

三猿の語のひびくかな雲の峰 不死男

雲の峰潰え一切無に帰せり 誓子

清拭の垢ほろほろと雲の峯 波郷

峰雲や生きてひとりの強さ弱さ 不死男

雲の峯初の奥山育ちなる 静塔

白き背を吾に向けたる雲の峰 誓子

峰雲に鉄帽冠る天文台 誓子

海に聳ち海の宴の雲の峰 林火

日本を縦貫峰雲連なりて 誓子

頭角を更に現す雲の峰 誓子