虹の環を以て地上のものかこむ
枯蘆原青年の来るところならず
鴨群れて浮くこれほどの奢りなし
日頃憎む邸芝焼けばなほ憎む
焼芝に午前のうちの柵の影
学生の落第せると浦づたひ
猫の毛がちらばる昨夜の恋おそろし
水のなきところへ上り蝌蚪は死す
蝌蚪暮れし上ともなくて鴉とぶ
水増して蝌斗の寄る岸高くなりぬ
光ぎつしり蝶老ゆることありや
紫が深まれば黒雨の菫
海上の音みな虹の環に籠る
田鋤牛やすらふや前のめりして
鋤き終へし向にて牛の立ち憩ふ
指に匐はせ美濃の蛍を頒ちあふ
眼に力籠めて立てるに虹衰ふ
田掻牛身を傾けて力出す
死にければ闇たちこむる蛍籠
葉桜の駅に字を書く洋傘の尖
新緑に声しはがれて鴉過ぐ
向日葵の十四花ゴッホの場合の如く
炎天の三重より奈良へ歩き出す
金魚かたまれり数尾の死の後に
瓜貰ふ太陽の熱さめざるを
曽て吾通りし麦の中黄ばむ
麦畑秘密なきまで吹き荒るる
どこにこのしぶとき重さ西瓜抱く
花火にて荒れし空雁鳴きわたる
待ち待ちしただ二時間の花火の夜