和歌と俳句

山口誓子

七曜

聖病院夏の夜あけに子を賜ふ

髪黒く戦の夏の夜に生る

夏の日を額に聖なる誕辰

鶏頭の矮醜なるにちかづきゆく

秋風に歯牙なき口のひた泣ける

秋風に舌を扁く児が泣けり

雪の富士墳墓かたまる上に聳つ

冬の航木箱を海に棄てて去る

寒港に船騒然と湯を棄つる

七高の正月休む城の垣

火口湖が白き氷盤となれるのみ

大日輪霧氷を折りて手にかざす

雪嶺見る薄き草履を天守に履き

雪嶺見る睫毛天守に瞬き

夏野ゆき機翼の黒き翳に入る

緑蔭をなす夾竹桃花に満ち

終の駅夜涼遠近の区にネオン

駅の声夜涼に絶えていつか寝る

地下鉄道驟雨に濡れし人乗り来る

静臥椅子秋風の書に指挿む

ながく啼けり静臥のけふ終る

冬煖し汽車白煙を頭上にす

城を鎖し冬の日城の河に没る

餞と寒き月下に火を噴ける

羅紗の襟厚く真冬に向ひたり

冬天に子等の喚声一郭なす

兵起す喇叭ぞ鹿児島に雪降れり

知恵きざし牛乳飲みつつも雪を見る

外套の釦あたらし溶岩に落ち

鰤を担き海と別るる切通