ひそかなる居間の四隅に冬の翳
咀嚼する子が見え冬の夕食どき
竈火をいきなり燃やす冬の宿
大根を煮つつそぞろに冬はじめ
金星を懸くるすなはち冬の暮
短日のわれの暮れゆくことはやし
燈が照らす冬夜の浅き町の川
機関車にゐる三人の冬の夜
家覗き通る寒夜の時計店
往診の燈が寒き夜を分け行けり
往診の行きつつ寒き岸照らす
冬日和焚火に熱りつつ讃ふ
起きて先づゆらぐ焚火の穂を見たり
ことごとく木枯去つて陸になし
海に出て木枯帰るところなし
駆け通るこがらしの胴鳴りにけり
海の村時雨に休む映画館
海鳥の樹に怺へゐし冬の雷
海港や雪嶺天に支へたる
雪嶺の黒く夜明に連亙す
野を行きて終に燈のなき冬の川
沿ひ行けば夜の雲うつる冬の川
強震の夜の寒星を密にせし
惚れぼれと冬の金星立ち眺む
寒月の天に見下す潦
寒月に水浅くして川流る