風邪の咳直ぐ聖堂の穹窿に昇る
膝冷えて聖書読めざる子も俯向く
頌め歌もなく聖堂の寒さ凝る
墓が寝し直ぐの地面に朱欒落ち
枯れし苑磔刑の釘錆流す
聖霊を燃ゆる煖炉の裡にも見る
聖霊の御名に由り石炭を焚き添ふる
長崎の寒焼さめて旅も終り
新入生靴むすぶ顔の充血する
双眼鏡遠き薊の花賜る
絨毯を除れば海より夏来る
風噪ぐ五月珊珊と部屋の鍵
麦の秋雀等海に出てかへす
梅雨濡れし船欄に手を置く決別
梅雨のあと蟻すれちがひなほ湿地
炎ゆる海わんわんと児が泣き喚き
夏雲の壮子時なるを見て泪す
しろばえとプール一日北に駛す
プールの夜箱根足柄雷わたる
足摺りて雷も怒りし今日その日
激雷の戦ふ国土なきまでに
訣れ来て舷の水母なほ尽きず
わが旅の舷の水母をさし覗く
夏を痩せ棚高き書に爪立つも
蝉の羽瑞瑞し魄のなきいまも
一夏の詩稿を浪に棄つべきか
川浪を見ざりし夏も過ぎゆける
なつも末蚊が鉄柵の間にとび