和歌と俳句

久保田万太郎

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まづ船に旅の幸えし五月かな

船のひく水尾のひかりも五月かな

べんたうのうどの煮つけも薄暑かな

岩群れてひたすら群れて薄暑かな

この町や水にこと缺くあやめ黄に

梅雨くらしたまたま波をかぶる岩

火蛾去れりホテルの午前二時

薫風やいと大いなる岩一つ

薫風や岩にあづけし杖と笠

夏場所やけふも溜りに半四郎

鎌倉の若葉ぐもりのかくて雨

あてことのはづれてばかり麦の秋

犬の背にしばらく梅雨のうす日かな

でで虫やきのふの日和けふの雨

でで虫のすがれる木戸も月となり

夏川やネオンをうつす一ところ

鮎むしる餓鬼忌ちかきをおもひつつ

夏帯やつくつもりなきうそをつき

業平忌業平竹の一叢や

業平忌すだれにくらき一間かな

羊羹の舌にとけるや業平忌

雲の峰けふまたおなじかたにかな

船のでるまでつかひあふかな

雲つひに月つつみえず夜半の月

夏の夜の山ひろくなり狭くなり

友ぶねにすでに酔ひどれ夏の月