風鈴の四萬六千日の音
朝ふりや四萬六千日の照り
長生きのできるわけなき浴衣かな
汗ぬぐひ拭ひつづけて餘命あり
夏の夜やいのちをのせし風の冷え
がてんゆく暑さとなりぬきうりもみ
石庭の白砂ひかる薄暑かな
あぢさゐの咲きのこりたる木の間かな
梅雨の鴉しきりにひくく飛べるかな
梅雨冷えのサラダのトマト赤きかな
梅雨冷えのすゐれんすでに眠りけり
玉葱のいのちはかなく剥かれけり
蛍とび夫婦おろかに老いしかな
虹をかし長女も次女も嫁にだし
水打つや一とうちづつの土ほこり
風鈴やさして来りしあかるき日
餘命いくばくもなき昼寝むさぼれり
高浪にのまれてさめし昼寝かな
更衣あはれ雀のきげんかな
割り切つてものをいへばや更衣
門を入るすなはち牡丹ばたけにて
牡丹咲けるその一輪をいとしめる
牡丹いま活けをはりたる鋏かな
一輪の牡丹の秘めし信かな
牡丹はや散りてあとかたなかりけり