和歌と俳句

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とぶ蛍柳の枝で一休み 漱石

静かさに地をすつてとぶ蛍かな 子規

山門に蛍逃げこむしまり哉 子規

板塀にそふて飛び行く蛍哉 子規

蛍飛ぶ中を夜舟のともし哉 子規

松竝木美濃路の螢大いなり 虚子

恐ろしき峠にかかる螢かな 虚子

子規
夜の戸をささぬ伏屋の蚊帳の上に風吹きわたり蛍飛ぶなり

一葉
ひきさししねやのつま琴かげみえて伊予簾のそとをゆく蛍かな

次の夜は蛍痩せたり籠の中 子規

蛍飛ぶ背戸の小橋を渡りけり 子規

すべり落つる薄の中の蛍かな 碧梧桐

かたまるや散るや蛍の川の上 漱石

人寐ねて蛍飛ぶ也蚊帳の中 子規

子規
侘びて住む根岸の伏屋野を近み蛍飛ぶなり庭のくれ竹

立て懸て蛍這ひけり草箒 漱石


白妙のあやめの上をとぶほたるうすき光をはなちて去りぬ

田舎馬車乗りおくれたる螢かな 虚子

嵐山の闇に對する螢かな 虚子

茂吉
蚊帳のなかに放ちし蛍夕さればおのれ光りて飛びそめにけり

馬独り忽と戻りぬ飛ぶ蛍 碧梧桐

灯あかき紙端に落る蛍かな 碧梧桐

葭村に落る流れや飛ぶ蛍 碧梧桐

行く蛍白雲洞の道を照らす 碧梧桐

月の窓にものの葉うらのほたるかな 蛇笏

庵出る子に松風のほたるかな 蛇笏

白秋
アァク燈點れるかげをあるかなし蛍の飛ぶはあはれなるかな

白秋
人力車の提灯點けて客待つとならぶ河辺に蛍飛びいづ

利玄
みちのくの一の関より四里入りし畷に日暮れ蛍火をみる

利玄
賊住みし窟に近きみちのくの水田の畔に燃ゆるほたる火

手うつしに蛍もらひぬ垣根ごし 淡路女

蛍火や茫と城ある河向う 喜舟

舟べりにとまりてうすき螢かな 虚子

寝し家を喜びとべる蛍かな 虚子

提灯を蛍が襲ふ谷を来り 石鼎

瀬をあらび堰に遊べる蛍かな 石鼎

山風の谷へ火ながき蛍かな 石鼎

月さすや谷をさまよふ蛍どち 石鼎

茂吉
草づたふ朝の蛍よみじかかるわれのいのちを死なしむなゆめ