荒庭に敷きたる板のかたはらに古鉢ならび赤き花咲く
生垣の杉の木低みとなり屋の庭の植木の青芽ふく見ゆ
人の家にさへづる雀ガラス戸のそとに來て鳴け病む人のために
ガラス戸の中にうち臥す君のために草萌え出づる春を喜ぶ
古雛をかざりひ ゝなの繪を掛けしその床の間に向ひてすわりぬ
若草のはつかに萌ゆる庭に來て雀あさりて隣へ飛びぬ
ガラス戸のそとに飼ひ置く鳥の影のガラス戸透きて疊にうつりぬ
枝の上にとまれる小鳥君のために只一聲を鳴けよとぞ思ふ
庭の隅に蒔きたる桃の芽をふきて三とせになりて乏しく咲きぬ
鄙にあれば心やすけし人の家の垣の山椒の芽を摘みて來つ
山椒の花はみのらず花咲かぬ山椒の木に實はむすぶとふ
藪わけてたらの木の芽を尋ぬればさきだつ人の折りし跡あり
木の實はみ木の根とりくひいきながら空に昇りて神とならんかも
こち村とさき村のあはひしみたてる森に祭れるうぶすなの神
時鳥竹やぶ多き里過ぎて麥のはたけの月に鳴くなり
尖葉の菖蒲のくさの花さきて白にむらさきに園にぎはしも
菖蒲草その花びらのむらさきを衣にし摺りて妹に着せばや
白妙のあやめの上をとぶほたるうすき光をはなちて去りぬ
二荒のふもとをゆけば野のきはみ山あひにして瀧かゝるみゆ
二荒の山のつゞきの山もとにたぎつ七たき七つなみおつ
松をうゑ茄子をつくるかたはらに朝顔はひて垣にからめり
朝顔と葡萄の棚とあひならび葡萄の蔓に朝顔からむ
もとあらの棚に這はせし朝顔のいや長蔓のしげりはびこる
この庭の朝顔きりてつなげらばさき村ゆきて木にからむべし
棚にしてからむ朝顔その蔓のたれしところに莟ふくれつ
萩の花ぬける白玉ともしけど露にしあればとりがてにすも
ひまあらの垣にしげれる白萩のしらじら見えて夕月のぼる