和歌と俳句

長塚 節

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鋸の齒なす諸葉の眞中ゆもつら抽きたてるたむぽゝの花

鍋につく炭掻きもちてこゝと塗りたれ戯れのそら豆の花

筑波嶺のたをりの路のくさ群に白くさきたる一りむさうの花

藪陰のおどろがさえにはひまどひ蕗の葉に散る忍冬の花

きその宵雨過ぎしかば棕櫚の葉に散りてたまれるしゆろの樹の花

よひに掃きてあしたさやけき庭の面にこぼれてしるき錦木の花

袷きる鬼怒の川邊をゆきしかばい引き持てこしみやこぐさの花

暑き日の照る日のころとすなはちにかさ指し開く人參の花

筑波嶺のみちの邂逅にやまびとゆ聞きて知りたるやまぶきさうの花

大和嶺に日が隱ろへば眞藍なす浪の穗ぬれに文魚の飛ぶ見ゆ

眞熊野のすゞしき海に飛ぶ文魚の尾鰭張り飛び浪の穗に落つ

干竿に洗ひかけほす白妙の衣のすそのたち葵の花

にほとりの足の淺舟さやらひにぬなはの花の隱りてをうく

忍冬の花さきひさに鬼怒川にぼら釣る人の泛けそめし見ゆ

鬼怒川の高瀬のぼり帆ふくかぜは樗の花を搖らがして吹く

さゆりばな我にみせむと野老蔓からみしま ゝに折りてもち來し

白埴の瓶によそひて活けまくはみじかく折りし山百合の花

眞日の照り日の照るなべにさぶしらに胡瓜の黄葉おちにけるかも

筑波嶺のノタリはまこと雨ふらばもろこし黍の葉も裂くと降れ

山桑の木ぬれにみゆる眞熊野の海かぎろひて月さしいでぬ

ぬばたまの夜の樹群のしげきうへにさゐさゐ落つる那智の白瀧

ここにしてまともにかかる白瀧のすずしきよひの那智山よしも

那智山は山のおもしろいもの葉に月照る庭ゆ瀧見すらくも

なちやまの白瀧みむとこし我にさやにあらむと月は照るらし

眞向ひに月さす那智の白瀧は谷は隔てどさむけくし覺ゆ

あたらしき那智の月かも人と來ばみての後にもかたらはむもの

那智山の瀧のをのへに飽かずみむこよひの月夜明けぬべきかも

やまとにはいひ次ぐ那智の瀧山にいくそ人ぞも月にあひける