和歌と俳句

長塚 節

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比叡の嶺を雨過ぎしかばうるほヘる杉生がもとの沙羅雙樹の花

杉の樹のしみたつ比叡のたをり路に白くさきたる沙羅雙樹の花

暑き日を萱別けなづみ此叡の嶺にこしくもしるく沙羅の花見つ

あまたゝび來むと我はもふ斑鳩の苗なる梨のなりもならずも

しろたへの衣手寒き秋雨に庭の木犀香に聞え來も

秋の田のわせ刈るあとの稻莖に煩しくのこるおもだかの花

とき待ちて穗にたちそめしおくて田の花さくなべにわさ田刈り干す

秋の日の日和よろこび打つ畑のくまみにさける唐藍の花

我門の茶の木に這ヘる野老蔓秋かたまけていろづきにけり

うねなみに作れるはおしなべて下葉枯れゝどいまさかりなり

小春日の庭に竹ゆひ稻かけて見えずなりたる山茶花の花

こぼれ藁こぼれし庭のあさ霜にはらゝに散れる山茶花の花

つゆしもの末枯草の淺茅生に交りてさける紅蓼の花

冷やけく茶の木の花にはれわたる空のそくへに見ゆる秋山

筑波嶺ははれわたり見ゆ丘の邊の唐人草の枯れたつがうへに

鬼怒川をあさ越えくれば桑の葉に降りおける霜の露にしたゞる

いづへにか蕗はおひける棕櫚の葉に枇杷の花散るあたりなるらし

つくばねに雪積むみれば榛の木の梢寒けし花はさけども

霜解のみちのはりの木枝毎に花さけりみゆ古殻ながら

はりの木の花さく頃の暖かに白雲浮ぶ空のそくへに

淡雪の楢の林に散りくれば松雀が聲は寒しこの日は

筑波嶺に雪は降れども枯菊の刈らず殘れるしたもえに出づ

淺茅生の茅生の朝霜おきゆるみはもえぬ茅生の淺茅に

春雨のふりの催ひに淺緑染めいでし桑の藁解き放つ