青桐のむらなる莢のさやさやに照れるこよひの月の涼しさ
ふくろふの宵々なきし榧の樹のうつろもさやに照る月夜かも
秋の夜の月夜の照れば樟の木のしげき諸葉に黄金かゞやく
秋風のはつかに吹けばいちはやく梅の落葉はあさにけに散る
あさゝらず立ち掃く庭に散りしける梅の落葉に秋の雨ふる
我が庭の梅の落葉に降る雨の寒き夕にこほろぎのなく
秋されば佛をまつるみそ萩の花もさかずや荒海の島
うねなみに藍刈り干せる津の國の安倍野を行けば暑しこの日は
大ふねの舳の松の野の穗芒は陵のへに靡びきあへるかも
うなねつき額づきみればひた丘の木の下萱のさやけくもあるか
向井野の稗は穗に出づ草枕旅の日ごろのいや暑けきに
物部の建つる楯井の陵にまつると作れその菽も稗も
雨ないたくもちてなよせそ茅淳の海や淡路の島に立てる白雲
さびしらに蝉鳴く山の小坂には松葉ぞ散れるその青松葉
比叡の嶺ゆ振放みれば近江のや田上山は雲に日かげる
天霧ふ息吹の山は蒼雲のそくへにあれどたゞにみつるかも
近江の海八十の湊に泛く船の移りも行かず漕ぐとは思へど
鞍馬嶺ゆゆふだつ雨の過ぎしかばいまか降るらし滋賀の唐崎
さやさやに水行くなべに山坂の竹の落葉を踏めば涼しも
春日野の茅原を暑み森深くこもりにけらし鹿のみえこぬ
春日山しげきがもとを涼しみと鹿の臥すらむ行きてかも見む
みれど飽かぬ嫩草山にゆふ霧のほのぼのにほふくさ萩の花
ゆふ月のひかり乏しみ樹のくれの倉梯山にふくろふのなく
こもりくの初瀬のみちは艾なす暑けくまさる倚る木もなしに
櫛御玉大物主の知らしめす三輸の檜原は荒れにけるかも