耳なしの山のくちなし樹がくりにさく日のころは過ぎにけらしも
葦原や八百湧きのぼる滿潮の高知りいます神の大宮
橿原の神の宮居の齋庭には葦ぞおひたる御井の眞清水
橿原の宮のはふりは葦分に御井は汲むらむ神のまにまに
たび ゝとの逝囘の丘の小畠には煙草の花はさきにけるかも
やま桑の木津のはや瀬ののぼり舟つな手かけ曳く帆はあげたれど
日をへつつ伊勢の宮路に粟の穗の垂れたる見れば秋にしあるらし
加布良古の三崎の小門をすぎくれば志摩の浦囘に浪立ち騒ぐ
麥崎のあられ松原そがひみにきの國やまに船はへむかふ
三輪崎の輸崎をすぎてたちむかふ那智の檜山の瀧の白木綿
丹敷戸畔丹敷の浦はいさなとる船も泛ばず浪のよる見ゆ
眞熊野の熊野の浦ゆてる月のひかり滿ち渡る那智の瀧山
ひとみなの見まくの欲れる那智山の瀧見るがへに月にあへるかも
このみゆる那智の山邊にいほるとも月の照る夜はつねにあらめやも
虎杖のおどろが下をゆく水の多藝津速瀬をむすびてのみつ
眞熊野の山のたむけの多藝津瀬に霑れ霑れさける虎杖の花
かゞなべて待つらむ母に眞熊野の羊齒の穗長を箸にきるかも
竹筒のや樛の木山の谷深み瀬の音はすれど目にもみられず
熊野川八十瀬を越えてくだりゆく船の筵にさねて涼しも
眞熊野の浦囘にさける筐柳われもたむけむ花の窟に
三河の伊良胡が崎はあまが住む庭のまなごに松の葉ぞ散る
いせの海をふきこす秋の初風は伊良胡が崎の松の樹を吹く
しほさゐの伊良胡が崎の萱草なみのしぶきにぬれつ ゝぞさく
清見潟三保のよけくを波ごしに見つゝを行かむ日のくれぬとに
箱根路を汗もしとゞに越えくれば肌冷かに雲とびわたる