和歌と俳句

春日野

娘子
ちはやぶる神の社しなかりせば春日の野辺に粟蒔かましを

赤麻呂
春日野に粟蒔けりせば鹿待ちに継ぎて行かましを社し恨めし

石川郎女
春日野の山辺の道を恐れなく通ひし君が見えぬころかも

大伴像見
春日野に朝居る雲のしくしくに我れは恋ひ増す月に日に異に


伊勢物語
春日野の若紫のすり衣しのぶのみだれ限り知られず

古今集 よみ人しらず
春日野はけふはな焼きそ 若草のつまもこもれり 我もこもれり

貫之
春日野の 若菜も君を いのらなむ たがためにつむ 春ならなくに

古今集 貫之
春日野の若菜つみにやしろたへの袖ふりはへて人のゆくらん

古今集・恋 忠岑
春日野の雪間をわけて生ひいでくる草のはつかにみえし君はも

躬恒
春日野におふる若菜を見てしより心をつねに思やる哉

続後撰集・雑歌延喜廿一年 京極御息所春日社にもうで侍りける日 大和国のつかさにかはりてよめる 躬恒
年ごとに 若菜つみつつ 春日野の 野守もけふや 春をしるらん

信明
春日野の 野守と身をも なしてしが 待つらむ春を わがものとみむ

好忠
春日野の若草原に立つきじの今朝の羽音に目をさましつつ

拾遺集・春 円融院御製
かすが野におほくの年はつみつれどおいせぬ物は若菜なりけり

後拾遺集・春 能宣
白雪のまだふるさとの春日野にいざうちはらひ若菜つみみむ

後拾遺集・雑歌 公任
身をつみておぼつかなきは雪やまぬ春日の野辺の若菜なりけり

後拾遺集・春 和泉式部
春日野は雪のみつむと見しかども生いづるものは若菜なりけり

千載集 俊頼
春日野の雪を若菜につみそへてけふさへ袖のしをれぬるかな

俊頼
春日野の 雪のむら消え かきわけて たがため摘める 若菜なるらむ

俊頼
春日野に立つ朝霧もきみがため松のちとせをこむるなりけり

俊頼
きみがよの ためしにひかむ 春日野の いしの竹にも 花咲きにけり

新古今集 源國信
春日野の下萌えわたる草のうへにつれなく見ゆる春のあわ雪

新古今集 壬生忠見
春日野の草はみどりになりにけり若菜摘まむと誰かしめけむ

新古今集 壬生忠見
焼かずとも草はもえなむ春日野をただ春の日に任せせたらなむ

俊成
春日野の松の古枝のかなしきは子の日にあへどひく人もなし

新古今集・神祇 俊成
春日野のをどろの道の埋水すゑだに神のしるしあらはせ

俊成
君をいはふ子の日もあまた過ぎにけりあはれとおもへ春日野の松

俊成
春日野に生ふる子の日の松はみな千代をそへつつ神や引くらむ

俊成
若菜には數ならねども春日野に多くも年をつみてけるかな

俊成
鹿のねはよそにこそきけ春日野は草の枕のものにぞありける

西行
春日野は年のうちには雪つみて春は若菜のおふるなりけり

西行
三笠山月さしのぼる影さえて鹿鳴きそむる春日野の原

式子内親王
袖しげし今朝の雪間に春日野の浅茅が本の若菜摘みみん

有家
春日野の野辺の草葉やもえぬらんけさは雪間の浅緑なる

良経
春日野の若菜は袖にたまれども猶ふる雪を打ち拂ひつつ

良経
春日野の 小松に雪を ひきそへて かつがつ千代の 花さきにけり

俊成
春日野の春の若菜に祈りおけばやほよろづよも君ぞ摘むべき

俊成
たとふべき方こそなけれ春日野の萩と鹿とを馴れて見るにも

良経
春日野の草のはつかに雪消えてまだうら若き鶯のこゑ

定家
春日野やしたもえ侘ぶる思ひぐさ君のめぐみを空に待つかな

雅経
春日野や ただ春の日に まかせても なほうづもるる 雪の下草

定家
春日野に咲くや梅が枝雪まよりけふは春べとわか菜つみつつ

定家
若菜つむ飛ぶ火の野守春日野にけふ降る雨のあすやまつらむ

実朝
春日野の飛ぶ火の野守けふとてやむかしかたみに若菜つむらむ

定家
春日野の かすみの衣 山風に しのぶもぢずり みだれてぞ行く

定家
春日野の雪のしたくさおのれのみ春の外にやむすびおくらむ

定家
春日野は昨日の雪の消えがてにふりはへ出づる袖ぞ數そふ