よろづよの初めの春としるきかなはこやの山の明け方の空
かすみたつ四方の山邊を見渡せば春は都のものにぞありける
春の来る使ひのためや鶯のあをき色にはなりはじめけむ
たまははき初子の松にとりそへて君をぞ祝ふしづのこやまで
春日野の春の若菜に祈りおけばやほよろづよも君ぞ摘むべき
早蕨は今はをりにもなりぬらむ垂氷のこほり岩そそぐなり
梅のはな咲きぬるときはおしなべて春の空さへ匂ふなりけり
昔よりいかに契りて梅のはな色に匂ひを重ねそめけむ
佐保姫の春のすがたやこれならむなつかしくもある玉柳かな
春雨の静かにそそぐけしきにてあまねきみよは空にみえけり
嬉しくも我が君が代の春にあひて風しづかなる花をみるかな
新勅撰集・春
雲やたつ霞やまがふ山ざくら花よりほかも花とみゆらむ
続後撰集・春
名にたかき吉野の山の春よりや雲に櫻をまがへそめけむ
たましきや風しづかなる花のもと心も散らぬものにぞありける
白川の昔はまづぞ思ひ出づる嬉しき春の花を見るにも
花ははる春は花をや思ふらむ時も草木も契りしあれば
君が代は井出の山吹さきそひて千代をかさぬる玉水のかげ
いとどいかに日吉の神も守るらむ春のみそらののどかなる世は
むらさきの雲と波とぞ連なれる花とはわかず田子のうら藤
いくかへり春のわかれも惜しみきぬみどりの空もあはれとはみよ