きのふまで雪ふるとしの小松原ひきかへてけり春のけしきに
あきつしま漕ぎはなれゆく浦舟はいくへか春の霞へだつる
雪のなほ降る野の野邊の若菜をや去年のかたみに摘むべかりける
冬の夜は雪かきつめし明かりより変はらず匂ふ花の色かな
春ごとに焦がれやすらむ船岡は蕨もえいづるわたりなりけり
咲きぬれば櫻や春の宮木もり過ぎ行く人をとどめがほなる
つくづくと日をふるさとの春雨や身をしるひとの涙なるらむ
春ふかみあれゆく駒は蘆原や野澤の水にかげもとどめず
雲路より遙かにかへる雁がねも関の清水にかげはみえけり
吹きおろす春のあらしや寒からむ霞のそこに呼子鳥かな
苗代のまだきに苗の色なるは峯の梢のうつるなりけり
むかしべの美保の岩屋を来てみれば苔のみぎりに菫さきけり
あそぶいとの春のはやしに漂ふは花のにしきやはつれゆくらむ
瀧つせの玉ちる水やかかるらむ露のみしげき山吹の花
みさひゐて流れもいでぬ沼水をいとともこむる杜若かな
むらさきに匂はざりせば藤のはな池よりかかる波かとやみむ
遅れじと都を出でしかひもなく今宵や春に行き別るらむ