天の戸のあくるけしきものどかにてくもゐよりこそ春は立ちけれ
相坂にけさは来にけり春霞夜はにやたちし白河の関
新古今集・春
今日といへばもろこしまでもゆく春を都にのみとおもひけるかな
鴛のゐる池の氷のとけゆくは己が羽ぶきや春のはつかぜ
年くれし涙のつららとけにけり苔の袖にも春やたつらむ
験あれと祝ひぞそむる玉帚とる手ばかりのちぎりなりとも
なににせむ踏みそめつらむみやまぢの苦しかるべき岩のけしきを
恋草にしほれそめぬる袂かなつゆじもをかむほどぞ知らるる
千載集・恋
ともしする端山がすその下露やいるより袖はかくしかくしをるらむ
しるやいかに君をみたけのはついもゐ心のしめも今日かけつとは
山ふかみ霞のそこの鶯に春をあさしと聞くぞあやしき
雲間よりよそに聞くこそあはれなれあさくら山の鶯のこゑ
春きても谷にのこれる鶯はうらみたるねに聲ぞきこゆる
惜しきかなたれか聞くらむみちのくのしのぶの奥のうぐひすのこゑ
続後撰集・恋
人とはば袖をば露といひつべし涙のいろをいかにこたへむ
身のうさの涙になれぬ袖ならばいかにいひてか恋をつつまむ
袖は見ゆ枕にもまたしらせねばやるかたもなきわがなみだかな
新古今集・恋
散らすなよ篠の葉草のかりにても露かかるべき袖のうへかは
千載集・恋
いかにせむ室の八島に宿も哉こひの煙をそらにまがへむ