新古今集
わたすべき數もかぎらぬ橋柱いかにたてける誓なるらん
高砂の尾上の櫻みしことも思へばかなし色にめでける
新勅撰集
みなしごとなになげきけむ世の中はかかる御法のありけるものを
まよひけるこころも晴るる月影にもとめぬ玉や袖にうつりし
春雨は此面彼面の草も木もわかずみどりに染むるなりけり
いかばかり嬉しかりけむさらでだに来む世のことは知らまほしきを
世の中の苦しき道はあはれびの力車のはこぶなりけり
ながき夜になほさてのみや過ぐさましあはれとみつつ教へざりせば
かぎりなき命となるもなべてよのもののあはれを知ればなりけり
千載集
武蔵野のほりかねの井もあるものをうれしく水に近づきにける
巻々をかざれるひものたまゆらもたもてば佛よろこびたまふ
薪こり峯の木の實をもとめてぞ得難き法は聞きはじめける
數ならば惜しくやあらまし惜しからぬうき身ぞ聞けば嬉しかりける
しづかなる庵をしめて入りぬればひとかたならぬ光をぞ見る
池水の底よりいづる蓮葉のいかで濁りにしまずなりけむ
かりそめに夜半の煙とのぼりしや鷲の高嶺にかへるしらくも
怠らず常に心をおさめつついつかうき世のねぶりさむべき
新勅撰集
谷川のながれのすゑをくむ人も聞くはいかがは験ありける
濁りなく清き心にみがかれて身こそますみのかがみなりけれ
そのかみの荒きたぶさの杖にこそつひにかかりて導かれけれ
この法をこのごろたもつこれぞこの佛のみちにさだめたる人
あはれけふ御法のすゑをきくことも譲りをきける験なりけり