素覺法師
草深き狩場の小野を立ちいでて友まどはせる鹿ぞ鳴くなる
寂然法師
背かずはいづれの世にか廻り逢ひて思ひけりとも人に知られむ
源季廣
あひ見ても嶺にわかるる白雲のかかるこの世の厭はしきかな
寂然法師
音に聞く君がりいつかいきの松待つらむものを心づくしに
寂然法師
別れにしその面影の恋ひしきに夢にも見えよ山の端の月
寂然法師
わたつ海の深きに沈むいさりせで保つかひある法をもとめよ
寂然法師
うき草の一葉なりとも磯隠れおもひなかけそ沖つ白波
寂然法師
さらぬだに重きが上の小夜衣わがつまならぬつまな重ねそ
寂然法師
花のもと露のなさけはほともあらじ酔ひな勧めそ春の山風
二條院讃岐
うきもなほ昔のゆゑと思はずはいかにこの世を恨みはてまし
皇太后宮大夫俊成
わたすべき數もかぎらぬ橋柱いかにたてける誓なるらむ
皇太后宮大夫俊成
今ぞこれ入日を見ても思ひこし彌陀のみくにの夕暮の空
皇太后宮大夫俊成
いにしへの尾上の鐘に似たるかな岸うつ波のあかつきのこゑ
式子内親王
しづかなるあかつきごとに見渡せばまだ深き夜の夢ぞ悲しき
選子内親王
逢ふことをいづくにてとか契るべき憂き身の行かむ方を知らねば
僧都源信
玉かけし衣の裏をかへしてぞ愚かなりける心をば知る
赤染衛門
夢や夢うつつや夢とわかぬかないかなる世にか覺めむとすらむ
相模
常よりも今日の煙のたよりにや西をはるかに思ひやるらむ
返し 伊勢大輔
今日はいとど涙にくれぬ西の山おもひいり日の影をながめて
待賢門院堀河
西へゆくしるべとおもふ月影の空だのめこそかひなかりけれ
返し 西行法師
立ち入らで雲間に分けし月影は待たぬけしきや空に見えけむ
瞻西上人
昔見し月のひかりをしるべにて今宵や君が西へ行くらむ
西行法師
闇はれて心のそらに澄む月は西の山邊や近くなるらむ