雲のうへの春こそさらに忘られね花はかずにもおもひいでしを
今はわれ吉野の山の花をこそ宿のものとも見るべかりけれ
雲の浪岩こす瀧と見ゆるかな名に流れたるしらかはの花
新古今集・雑歌
照る月も雲のよそにぞゆきめぐる花ぞこの世のひかりなりける
吉野山花や散るらむあまの河くものつつみをくづす白浪
うらみわび命たえずはいかにして今日と頼むる暮を待たまし
さりともとたのむの雁をたのみ来ているまの里に今日ぞいりぬる
これもこれ深きえにとを思ひしれ淀の若菰かりねなりとも
たのまずは飾磨の褐の色を見よあひそめてこそ深くなりぬれ
ときかへし井手の下帯ゆきめぐり逢瀬うれしき玉川の水
待つとしも今はなけれど郭公なれし心のそらにもあるかな
待つほども聞くにもいかにほととぎす心をつくす妻となるらむ
新古今集・夏
むかしおもふ草の庵のよるの雨に涙なそへそ山ほととぎす
新古今集・夏
雨そそぐ花たちばなに風すぎて山ほととぎす雲に鳴くなり
ほととぎす鳴くやとおもへば鳴かぬ夜も皐月の空はあはれなるかな
あかつきの別れをしらでくやしくも逢はぬつらさをうらみけるかな
相坂をこえてしもこそなかなかにしがの浦波そでにかけけれ
わかれつる涙のほどをくらべばやかへる袂ととまる枕と
となせ河岩間にたたむ筏士や浪にぬれても暮をまつらむ